培ってきた技術を活かし、
新たな市場に切り込んでいく。
日本ピグメントの
新しい事業につながる芽を育てる─。
そんな狙いで始まった
戦略的プロジェクト。
それは、開発に挑んだ2人の
若手技術者の勇気ある
チャレンジでもありました。
T.A技術開発部 開発二課
2021年度
大学院
応用科学専攻
A.Sさんは
責任感がとても強く、
チームをしっかり
引っ張って
くれています
A.S技術開発部 開発二課
2019年度
大学院
生命環境学専攻
T.Aさんは
マイペース。
落ち着いて淡々と
仕事をこなしていく
タイプの人です
未知の領域に立ち向かう
プラスチック樹脂加工を主な事業とする日本ピグメントには、長年の課題がありました。それは主力である樹脂加工から派生した「液体分散体 NEODISPER®」の事業をさらに拡大させ、将来の新しい事業の柱を育てていくことでした。ターゲットとなったのは成長著しい半導体市場。強みである液体分散体の技術を核として金属を分散させた導電性材料の開発技術を確立し、半導体分野に切り込んでいくことになったのです。こうした事業拡大に向け発足したのが、パワー半導体向けの接合材料と、配線用の導電性インキを開発するというプロジェクトでした。
プロジェクトにアサインされたのは2人の若手技術者。入社7年目のA.S(技術開発部開発二課)と、入社5年目のT.A(同)です。
A.Sは「声がかかったのは入社3年目の時。当時は分析チームに所属しており、分析者としての経験を重ねていきたいと考えていたので、開発プロジェクトを任されたことにはとても驚きました」と振り返ります。一方のT.Aに声がかかったのは、なんと入社半年後のこと。「学生時代の有機合成の研究を通じて、計画から実験、検証というサイクルを身につけていたことが期待されたのかもしれません。将来につながる挑戦だとワクワクしました」(T.A)。
経験やバックボーンに関係なく、志ある人間にはチャレンジをさせてくれるという、日本ピグメントならではのカルチャーが2人のアサインにつながりました。
試行錯誤を繰り返す
パワー半導体とは大きな電力を効率よく制御・変換する電子部品で、脱炭素社会への切り札として、あるいはAIの普及を後押しするキーデバイスとして、需要が高まっています。接合材料の開発を担うことになったA.Sは、まずパワー半導体について学ぶため、社外のセミナーに参加するところから取りかかりました。
「衝撃だったのは、あるメーカー様から“半年でサンプルが欲しい”と言われたことでした。ともかく試作品を作り、お客様から信頼性や耐久性についてのフィードバックをいただいては作り直すという試行錯誤の繰り返しでした」(A.S)
一方、導電性インキの開発を委ねられたT.Aも、そもそも導電性インキとは何かを調べるところからスタート。どのような独自性を生み出すか、手探りで取りかかりました。印象的だったのは、技術を学ぶために展示会にも積極的に足を運んで材料メーカーの技術者とコミュニケーションしたところ、電気を流すための金属粉やバインダー樹脂といった材料及びその配合についてのヒントを手にできたことです。「バインダーについては当社ならではの知見がありましたが、展示会に足を運んだことで新たな知見が得られました」(T.A)。
机上やネットの情報だけでなく、生きた情報を自ら積極的にキャッチすることで、道は自然と開けていきました。
開発環境も自ら構築
「特に開発環境の立ち上げには苦労しました」と振り返るのはA.Sです。
実際に作っては評価し、結果を見てやり方を変えてみる。その地道な繰り返しの中、開発環境が整っていないことは大きな悩みのタネでした。評価するための機器が一つもなく、A.Sは必要に応じて機器メーカーからデモ機を借りるなど、知恵を絞って対応。有効な機器があったら会社に掛け合って購入もしました。
「稟議書を書いて、かなり高額な機器も買っていただきました。自分でゼロから開発環境を整えていくという経験を、こんな若手にさせてくれたことに感謝しています」(A.S)
T.Aは、ようやく開発した導電性インクが採用直前に振り出しに戻ってしまったという苦い経験をしました。
「我々の作ったサンプルを搭載した製品のサンプルをお客様に見せていただいたときは、”世の中にこれが出ていくのかと”感動しました。ところがお客様の諸事情もあり、急きょ取りやめになりました。」(T.A)。
ビジネスの現場では決して珍しい話ではありません。しかし、他社の技術者とコミュニケーションしながら製品開発に取り組んだことはT.Aにとって貴重な経験となりました。「得るものが多かった」とT.Aも語っています。
晴れ舞台で得た、確かな手応え
2人の手によって開発された「銀焼結接合材 SuNPiD®」と「導電性印刷インキSuNPiD®」は、2025年1月、東京ビッグサイトで開催された電子機器・半導体・パワーデバイス等のアジア最大級の展示会「ネプコン ジャパン」に出展されました。いわば2人それぞれの“我が子”を世に初めてお披露目する舞台です。日本ピグメントのブースで展示コーナーに立つ2人は、誇らしさで胸が一杯でした。
「実際に製品を採用してくれそうなお客様から“こんな条件で使えるだろうか”応用範囲は”といった声を直接聞けたのはよかったです。新しい課題をいただきました」(A.S)「海外の方も含め、大勢の技術者の方と交流できました。予想していた以上に市場は広いことがわかり、私たちの製品の可能性の高さを実感しました」(T.A)
顧客によってニーズは様々であり、それに応えていくためには、製品ラインナップを拡充させることも必要です。「SuNPiD®」の将来性を強く感じた2人は、引き続き開発を進めていくことに。
「経営陣からも、期待しているから頑張ってと、声をかけていただきました」と、A.Sは胸を張っています。